2014年05月20日
孫子の兵法経営戦略
孫子の兵法経営戦略
長尾一洋 著
<古書に学ぶ>
有名な経営者や大会社の社長さんが、インタビューで「古書」から経営を学ぶというお話をされることがあります。
知的で高尚なお話ですね。しかし、自らも労働力の一員として忙しく働く中小企業の社長さんや個人事業主さんには、中々古書を読み解く時間は持てないでしょう。私自身も「古書」を手にした事はありませんし、読み解く教養もありません。でも、どんな事が書いてあるのか、興味は沸きますよね。
<大局的なアドバイス>
古書から学ぶ事項は、殆どが大局的な事柄です。経営者の心の持ち方だったり、超長期的な会社の目標設定やビジョンだったり、従業員の心の把握だったりします。中には、「取引先を大切にすれば、日ごろの心意気を先方が汲み取り、いつかその徳が自社への還って来る」といった、道徳なのか経営アドバイスなのかよく分からない・・・ものありますね。
本書に紹介されている内容もそうです。具体的な集客方法や取引先との交渉話術というようなものではありません。
従ってこれを読んだからといって、明日からの会社経営に直結するものでは無いのです。
<利益を生むのは小手先の技術>
若い頃参加したビジネス研修で『「小手先の仕事の技術」ではなく、もっと大きく将来を見据え「ビジネスマン」の根幹を成す部分を鍛え学んでもらいたい』という訓示を聞きました。一見尤もなお話のようですが、私は違和感を抱きました。
私は、商売においては「小手先の技術」こそが利益を生み出す源泉なのではないかと思うのです。
他人が出来ない事を自分はできる。だから他人は自分にお金を支払って仕事を依頼してくれる。
他人が入手できない商品を自分は入手できる経路を持っている。だから他人は自分からその商品を買ってくれる。
これが商売の基本でしょう。これは「小手先の技術」に他なりません。「人格」「取組み姿勢」や「ビジネスセンス」、これらが直接利益を生み出す事は無いのです。
昨今の世の中では、「小手先の技術」は直ぐに移り変わってしまうものです。ですので「小手先の技術」は常に磨き続ける必要があります。そのためのビジネス研修ではないでしょうか。
<「ビジネスマンの根幹」は経験の中から>
もちろん「ビジネスマンの根幹」も大切なものです。ブレないビジネススタンスは取引相手の信頼を生みます。人望があれば従業員一丸となって経営危機を乗り越えることもできるでしょう。でも、これらは「学ぶ」ものでは無いのだと思います。様々なビジネスシーンを経験する中で醸成されるものであって、研修や読書で形成されるものではありません。
「孫子」の言葉も同じでしょう。本書を読んで内容を知ったからといって今日明日の商売に活かせる事は無いでしょう。自身のこれまでの経験に照らし、「あ、これって言えてる!」と自分のビジネススタンスを再確認するための指標なのだと思います。
大企業の経営者が「古書」に学ぶと言うのは、学んでいるのではなく、自身の経験によるビジネススタンスや判断基準を古書の言葉を使って再確認しているのだと思います。
<印象に残った言葉>
さて今回も読書感想から大幅に脱線しましたが、最後に本書の中で私が気に入った言葉を2つ記録に残しておきたいと思います。
●孫子曰く、兵は拙速を聞くも、未だ巧久なるを賭ざり。
(スピードは最も費用のかからない差別化であり、中小企業が完璧を目指して遅れをとるようではならない)
●孫子曰く、未だ戦わずして廟算するに、勝つ者は算を得ること多きなり。算多きは勝ち、算少なきは勝たず。
(机上で勝ちがイメージできないのに、実践で思うように事が運ぶはずがない。実践的なビジョン・計画無くして経営は無い)
(静岡市立御幸町図書館所蔵)
新訂 孫子 金谷治 注釈
<原文確認>
その後、やはり原文が気になって買ってしまいました。
読み比べると本書に限らず、「孫子の〇〇戦略」といったビジネス書は、原文の一部を取り出し、現代風に脚色した解釈を付けて解説する傾向があるようですね。
私が挙げた「兵は拙速を聞くも、未だ巧久なるを賭ざり。」も少しニュアンスが違うようです。岩波新書の現代語訳では、「戦はたとえ下手な攻め方であっても、早めに勝利して手仕舞うならその方が良い。いくら上手な攻め方であっても時間をかけていつまでも攻めているようではよくない」となっています。
他の項目からも感じられるのですが、孫子は戦にかかる「費用」について、かなり意識しているようです。「兵は拙速を聞くも、・・・」のくだりも、もしかしたら単に「スピードが大切」という趣旨ではなく、「戦が長引けばコストが嵩むため、たとえそれで勝利できても、あまり旨味は無い」というコスト面からのアドバイスなのかもしれませんね。
有名な経営者や大会社の社長さんが昨今の経営書でなく「古書」を確認されるお気持ちがなんとなく分かった気がします。
(谷島屋書店静岡本店にて購入)
長尾一洋 著
<古書に学ぶ>
有名な経営者や大会社の社長さんが、インタビューで「古書」から経営を学ぶというお話をされることがあります。
知的で高尚なお話ですね。しかし、自らも労働力の一員として忙しく働く中小企業の社長さんや個人事業主さんには、中々古書を読み解く時間は持てないでしょう。私自身も「古書」を手にした事はありませんし、読み解く教養もありません。でも、どんな事が書いてあるのか、興味は沸きますよね。
<大局的なアドバイス>
古書から学ぶ事項は、殆どが大局的な事柄です。経営者の心の持ち方だったり、超長期的な会社の目標設定やビジョンだったり、従業員の心の把握だったりします。中には、「取引先を大切にすれば、日ごろの心意気を先方が汲み取り、いつかその徳が自社への還って来る」といった、道徳なのか経営アドバイスなのかよく分からない・・・ものありますね。
本書に紹介されている内容もそうです。具体的な集客方法や取引先との交渉話術というようなものではありません。
従ってこれを読んだからといって、明日からの会社経営に直結するものでは無いのです。
<利益を生むのは小手先の技術>
若い頃参加したビジネス研修で『「小手先の仕事の技術」ではなく、もっと大きく将来を見据え「ビジネスマン」の根幹を成す部分を鍛え学んでもらいたい』という訓示を聞きました。一見尤もなお話のようですが、私は違和感を抱きました。
私は、商売においては「小手先の技術」こそが利益を生み出す源泉なのではないかと思うのです。
他人が出来ない事を自分はできる。だから他人は自分にお金を支払って仕事を依頼してくれる。
他人が入手できない商品を自分は入手できる経路を持っている。だから他人は自分からその商品を買ってくれる。
これが商売の基本でしょう。これは「小手先の技術」に他なりません。「人格」「取組み姿勢」や「ビジネスセンス」、これらが直接利益を生み出す事は無いのです。
昨今の世の中では、「小手先の技術」は直ぐに移り変わってしまうものです。ですので「小手先の技術」は常に磨き続ける必要があります。そのためのビジネス研修ではないでしょうか。
<「ビジネスマンの根幹」は経験の中から>
もちろん「ビジネスマンの根幹」も大切なものです。ブレないビジネススタンスは取引相手の信頼を生みます。人望があれば従業員一丸となって経営危機を乗り越えることもできるでしょう。でも、これらは「学ぶ」ものでは無いのだと思います。様々なビジネスシーンを経験する中で醸成されるものであって、研修や読書で形成されるものではありません。
「孫子」の言葉も同じでしょう。本書を読んで内容を知ったからといって今日明日の商売に活かせる事は無いでしょう。自身のこれまでの経験に照らし、「あ、これって言えてる!」と自分のビジネススタンスを再確認するための指標なのだと思います。
大企業の経営者が「古書」に学ぶと言うのは、学んでいるのではなく、自身の経験によるビジネススタンスや判断基準を古書の言葉を使って再確認しているのだと思います。
<印象に残った言葉>
さて今回も読書感想から大幅に脱線しましたが、最後に本書の中で私が気に入った言葉を2つ記録に残しておきたいと思います。
●孫子曰く、兵は拙速を聞くも、未だ巧久なるを賭ざり。
(スピードは最も費用のかからない差別化であり、中小企業が完璧を目指して遅れをとるようではならない)
●孫子曰く、未だ戦わずして廟算するに、勝つ者は算を得ること多きなり。算多きは勝ち、算少なきは勝たず。
(机上で勝ちがイメージできないのに、実践で思うように事が運ぶはずがない。実践的なビジョン・計画無くして経営は無い)
(静岡市立御幸町図書館所蔵)
新訂 孫子 金谷治 注釈
<原文確認>
その後、やはり原文が気になって買ってしまいました。
読み比べると本書に限らず、「孫子の〇〇戦略」といったビジネス書は、原文の一部を取り出し、現代風に脚色した解釈を付けて解説する傾向があるようですね。
私が挙げた「兵は拙速を聞くも、未だ巧久なるを賭ざり。」も少しニュアンスが違うようです。岩波新書の現代語訳では、「戦はたとえ下手な攻め方であっても、早めに勝利して手仕舞うならその方が良い。いくら上手な攻め方であっても時間をかけていつまでも攻めているようではよくない」となっています。
他の項目からも感じられるのですが、孫子は戦にかかる「費用」について、かなり意識しているようです。「兵は拙速を聞くも、・・・」のくだりも、もしかしたら単に「スピードが大切」という趣旨ではなく、「戦が長引けばコストが嵩むため、たとえそれで勝利できても、あまり旨味は無い」というコスト面からのアドバイスなのかもしれませんね。
有名な経営者や大会社の社長さんが昨今の経営書でなく「古書」を確認されるお気持ちがなんとなく分かった気がします。
(谷島屋書店静岡本店にて購入)
Posted by 書架の番人 at 08:07
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