2013年07月16日
相続のミカタ
相続のミカタ
青木寿幸 著
<税理士が主人公の物語>
税理士を主人公とした物語や小説は、殆どお目にかかったことがありません。
難解で普段あまり馴染みの無い税法を物語に絡ませる事になるので、一般受けしないからでしょう。
本書の主人公「川野明美」は投資銀行本部で働く優秀なビジネスウーマンでしたが、銀行の経営が外資の手に渡り、経営統合でリストラされてしまいます。
転職に有利と聞き、税理士の資格を取得して転職活動に挑みますが、結果はどこも不採用。
父親のツテで銀座に小規模な事務所を構える「三方会計事務所」へ就職の面接に訪れるところから物語が始まります。
物語は「三方税理士」と主人公が、お客様から相続税の相談を受けそれに答える6話から構成されています。
<相続税対策と提案営業>
税理士の仕事に「相続税対策」という分野があります。生前に財産の一部を親族に贈与したり、銀行から借金をして田や畑に賃貸マンション等を建設して相続財産の評価を引下げるなど、相続税の節税のための対策を富裕層顧客へ提案するのです。
不動産を売買したり、お金を借りて建物を立てたりという行為を伴うので、不動産業者や銀行も積極的に「提案」を持って、事案に関与してきます。「提案営業」とか「コンサルティングセールス」などと言われる営業手法です。
<相続対策が問題を生むケースも>
相続税対策は、相続が発生する前の長い期間を使って計画・実行していくものが多いのです。しかし、世の中は常に変動しているため、実際に相続する頃には、世相や経済実態、親族間の人間関係が計画立案時と変わってしまう事があります。
また相続税対策は、通常「被相続人(つまり親です)」が主体となって計画するケースが多いため、相続人(子供)の要望とズレていたり、親の生前には子供側は自分の本音を主張しにくいため、相続発生後になって本音を主張するケースもあります。
結果として、「相続税対策」が裏目に出てしまい、こんな事ならたとえ多額の相続税を払っても、昔のままが良かったのに・・・という事態を招きかねません。相続税対策は、非常にリスクが高いのです。
<消極的な税理士>
一部の税理士を除き、町で普通の会計事務所を営んでいる税理士は「相続税対策」には消極的であるように見受けます。
これは、決してノウハウが無いからではありません。相続対策を実行して理論的には相続税額を減らせたとしても、そのために実行した「養子にする、贈与する、売る、借金をする、建物を建てる」などの行為が、その親族をかえって不幸にするケースがある事を多くの税理士さん達は分かっているのでしょう。
<三方税理士も失敗>
本書の主人公の上司「三方税理士」も多くの相続税対策で結果的にお客さんを不幸にしてしまっている事を最終章で明らかにしています。そして、その対策は「不動産会社」を営む主人公の父親と連携して行なわれたものです。もちろん悪意は無いのですが・・・。
主人公は強く反発しますが、そうやって稼いだお金で自分は育ててもらっていたのです。何ともやるせないですね。
でも、このエンディング、単純なHappyEndのお話よりも、心に残ります。リアリティーがあって私は好きです。
(静岡市立御幸町図書館所蔵)
青木寿幸 著
<税理士が主人公の物語>
税理士を主人公とした物語や小説は、殆どお目にかかったことがありません。
難解で普段あまり馴染みの無い税法を物語に絡ませる事になるので、一般受けしないからでしょう。
本書の主人公「川野明美」は投資銀行本部で働く優秀なビジネスウーマンでしたが、銀行の経営が外資の手に渡り、経営統合でリストラされてしまいます。
転職に有利と聞き、税理士の資格を取得して転職活動に挑みますが、結果はどこも不採用。
父親のツテで銀座に小規模な事務所を構える「三方会計事務所」へ就職の面接に訪れるところから物語が始まります。
物語は「三方税理士」と主人公が、お客様から相続税の相談を受けそれに答える6話から構成されています。
<相続税対策と提案営業>
税理士の仕事に「相続税対策」という分野があります。生前に財産の一部を親族に贈与したり、銀行から借金をして田や畑に賃貸マンション等を建設して相続財産の評価を引下げるなど、相続税の節税のための対策を富裕層顧客へ提案するのです。
不動産を売買したり、お金を借りて建物を立てたりという行為を伴うので、不動産業者や銀行も積極的に「提案」を持って、事案に関与してきます。「提案営業」とか「コンサルティングセールス」などと言われる営業手法です。
<相続対策が問題を生むケースも>
相続税対策は、相続が発生する前の長い期間を使って計画・実行していくものが多いのです。しかし、世の中は常に変動しているため、実際に相続する頃には、世相や経済実態、親族間の人間関係が計画立案時と変わってしまう事があります。
また相続税対策は、通常「被相続人(つまり親です)」が主体となって計画するケースが多いため、相続人(子供)の要望とズレていたり、親の生前には子供側は自分の本音を主張しにくいため、相続発生後になって本音を主張するケースもあります。
結果として、「相続税対策」が裏目に出てしまい、こんな事ならたとえ多額の相続税を払っても、昔のままが良かったのに・・・という事態を招きかねません。相続税対策は、非常にリスクが高いのです。
<消極的な税理士>
一部の税理士を除き、町で普通の会計事務所を営んでいる税理士は「相続税対策」には消極的であるように見受けます。
これは、決してノウハウが無いからではありません。相続対策を実行して理論的には相続税額を減らせたとしても、そのために実行した「養子にする、贈与する、売る、借金をする、建物を建てる」などの行為が、その親族をかえって不幸にするケースがある事を多くの税理士さん達は分かっているのでしょう。
<三方税理士も失敗>
本書の主人公の上司「三方税理士」も多くの相続税対策で結果的にお客さんを不幸にしてしまっている事を最終章で明らかにしています。そして、その対策は「不動産会社」を営む主人公の父親と連携して行なわれたものです。もちろん悪意は無いのですが・・・。
主人公は強く反発しますが、そうやって稼いだお金で自分は育ててもらっていたのです。何ともやるせないですね。
でも、このエンディング、単純なHappyEndのお話よりも、心に残ります。リアリティーがあって私は好きです。
(静岡市立御幸町図書館所蔵)
Posted by 書架の番人 at 08:12
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