2017年09月01日

会計は1粒のチョコレートの中に

会計は1粒のチョコレートの中に
林 總 著

会計は1粒のチョコレートの中に



<V字回復>
会計と経営を題材にした寸劇ドラマのような構成の本です。
業績不振のジャパンスイーツ社を銀行出身のエリート入り婿社長が引き継ぎ、見事V字回復を成し遂げます。
ですが実は、販売見込みのない大量の在庫を作り、そのへコストは配賦して利益を上げるという姑息な手段を使ったのです。
さらには赤字部門の「チョコレート」部門と「喫茶店」部門を子会社へ押し付けて切り離し、自社との資本関係を断つという手段を強行します。

外部の人たちは社長の辣腕ぶりを賞賛しますが、古参の従業員たちは、会社の経営理念からかけ離れた利益の出し方に反発します。


<部門別損益>
V字回復したはずのジャパンスイーツですが、その後は資金繰りが急激に悪化し、経営難に陥ります。
実は、赤字部門として切り離した「チョコレート」部門はキャッシュフロー面では会社に貢献しており、「赤字部門」となっていた原因は本社経費の配賦によるものでした。そしてさらには、その配賦基準が実態とあっておらず、正確に本社経費を各部門へ配賦すると「チョコレート」部門は黒字で、他の自社へ残した部門こそが赤字であった・・・というオチです。

部門別損益管理において間接コストの配賦はどうしても恣意的になりがちですね。さらに一歩踏み込んで言えば「正解は無い」のかもしれません。また、組織が大きくなると、各部門間の思惑や責任者の保身が入り込む可能性も大いにあります。難しい問題ですね。


<配賦しないのもアリでは?>
小規模企業の経理においても、部門別あるい営業所別の損益試算表の作成を依頼されることがあります。
場合によってですが、私は管理間接コストを各部門に配賦しない部門別試算表を作成し、社長に渡すことがあります。
「A部門」「B部門」「C部門」(あるいは本店営業部門・B支店・C支店)の他に「本社管理部門」というものを作ってそこに計上し、「管理コスト」をABC各部門には配賦しないのです。

理由は、「本社管理部門」の経費コントロール権はABC各部門(支店)長に無く、各部門長が責任を負うべき立場に無い事、そして、本社部門の経費を包括しての全社損益コントロールを行うのは社長自身の責務であることを明確化するためです。


<本社管理部門の責任者は社長です>
社長によっては「本社管理部門って・・・何コレ?きちんと各部門へ割り振ってヨ!」と仰る方もいらっしゃいます。ですが、「本社管理部門の赤字を最小限にコントルールできるのは、社長、あなたしか居ませんヨ。そして本社管理部門の赤字を補って余りあるだけの利益をABC各部門にあげさせるよう全社的なコントロールができるのも社長、あなただけですヨ」と申し上げます。

つまり小規模企業では、本社管理コストを各部門に配賦し、その責任を部門長に押し付けてA+B+C=会社利益の構図を作り、社長は「さあ皆んな頑張れ!」と旗を振るだけ・・・なんて事では立ち行きません。是非社長自らが積極的に損益コントロールに乗り出していただきたい。


<会社の目標とは?>
資金繰り、キャッシュフローと期間損益(利益)の矛盾点は多くの経営指南書で書かれています。本書でもお決まりのように題材となっています。しかし、今回はさらにその先を考えさせられました。

会社経営とは、いったい何を目標に進めていくべきなのか。決して毎期の「利益」の最大化ばかりを追うのでは無く、キャッシュフローにも気を配り、ブランド力を高め、社会的にも意義のある会社に・・・・なんて言っても掴みどころがありません。私は社長を経験したことはありませんが、もしその立場になったら、何を追い求めて行けば良いのか?

本書にその答えが明示されている訳ではありません、でも朧気ながら私なりの考えが浮かびました。
自社の「将来キャッシュフローの最大化」これが会社経営の本来の目標ではないでしょうか。
「当期の利益を上げる」「ブランド力を強化する」「従業員を育てる」「社会から必要とされ役割を担う」「ファン層の顧客を作る」「付加価値の高い商品を開発する」。これらすべては「将来キャッシュフローの最大化」に繋がる事です。


<上司の言葉>
余談ですが、昔勤務していた会社の管理会計部門の長であった上司の言葉を思い出します。
何の議論だったか忘れましたが、私が「会社の目標は当期利益の最大化」という趣旨を主張をしたところ、その上司から言われました。
(上司) 「伊藤君、当社の目標は当期利益の最大化では無いよ?」
(私)  「えっ?違うんですか?毎期毎期今できる最大の努力を払って利益を最大化することが会社の目標では?」
(上司) 「当社の目標は、安定的かつ将来に渡る永続的な利益を確保していく事だヨ。勿論その利益というのは高い水準であることが前提だけどね。当期利益を最大化する事とは違うんじゃないかナ?」
(私) 「そうか!それは、当期の利益に多少マイナスに働く選択枝でも、それによって来期、翌来期の利益にそれ以上のプラス効果を与えるならそちらを選ぶという考え方ですね。」
(上司) 「う~ん、まぁそうなんだけど、もっと長い期間を考えるんだよ、ずっと先まで!」

あれから30年近い年月が流れますが、「当社の目標」を明確に口にしたのはあの上司のあの言葉だけです。
いや、実は色々な人が色々言っているのでしょうが、私の記憶に残ったのはあの言葉だけです。残念ながら、その上司は昨年他界されました。
「安定的かつ将来に渡る永続的な利益の確保。その利益は高い水準であることが前提」・・・とは、今にして思えば「将来キャッシュフローの最大化」と同義だと思うのです。・・・・違いますか?室長・・・


<期間損益の合計額は全体利益に一致する>
ちなみに会計の基礎理論では、期間損益(毎期の利益)の合計額は全体利益(会社設立から終焉までの利益の合計)に一致します。
そして、全体利益はキャッシュフロー利益と一致します。
ですから、結局は将来キャッシュフロー(厳密には会社設立から終焉までのキャッシュフロー利益)は期間損益(毎期の利益)の合計額に一致します。


(静岡市立御幸町図書館所蔵)


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Posted by 書架の番人 at 21:56 │経営

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